Philoarts フィロアーツ 

藝術と日常の物語

自分を超えた知覚と絵画

東京都美術館で「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」を開催している。17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメールの初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》の画中画の壁面にキューピッドが描かれた画中画が塗り潰されていることが1979年のX線調査で判明。フェルメール自身が消したと考えられてきたがその画中画はフェルメールの死後、何者かにより消されていたという最新の調査結果が、2019年に発表された。

今回その修復プロジェクトの過程と修復後の《窓辺で手紙を読む女》が見られるとあって、美術館は大いににぎわっていた。

 

私とフェルメールとの出会いは『牛乳を注ぐ女』の絵を雑誌か何かで観たことだった。実際の絵を観たのは何年もあとだったけれど、女性がデルフト焼きの陶器で注意深く牛乳を注いている、何気ない一瞬をとらえた絵だが、本物と見間違うほどの見事な質感と不思議な静寂に包まれたこの絵の世界にどんどん引き込まれていった。

 

ヤン・フェルメール『牛乳を注ぐ女』1660年ごろ アムステルダム 国立美術館



絵には目には見えない様々なものが織り込まれている。作者のメッセージはもちろんのこと、生活のにおいや、時代精神や時代背景、また未来の予感など心の目を開いてみると、そういったものが直観的にからだを通してやってくる。この感覚がたまらなく愛おしくて、この絵の故郷を旅したくなる。どんなところでこの絵が生まれたのか、同じ景色をみたくて、確かめたくて。

 

絵を観ることと生きることは時に重なる

生きるとは、人生とは何かを問うことではなく、人生からの問いに応えることだと『夜と霧』の著者ヴィクトール・フルンクルは言った。人生は、いつも真摯な応えをもとめてくる、というのである。

絵も生きることに似ている。絵は、鑑賞者が様々な感情に触れる機会与えてくれる、と同時に様々なことを問いかけてくる。絵との対話を重ねることで、現実世界に存在する人々に対しても、自分を超えた知覚を持てるようになる。それを私は直観的感覚または共感力と呼んでいる。

 

美術館に飾られているものだけがアートではない。日常の中にもたくさんのアートが埋め込まれている。感覚を研ぎ澄まして日常の中にあるアートを再発見してみてほしい。アートは、あなたに発見されることを待ちわびているのだから。

 

第8期アート思考基礎講座

2022年4月14日開講

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