Philoarts フィロアーツ 

藝術と日常の物語

日本における都市の美の不在

  なぜ日本では、人を深く感動させる美しい都市が存在しないのか。

  ヨーロッパの街を歩いていると、しばしばその美しさに感動を覚える。それに比べて日本は、人間の暮らす都市を自然と調和させ、美しく創造するという発想や意識が欠けている。

ドイツ フライブルク

 2023年3月、東京・明治神宮外苑地区では、一帯の大規模な再開発が本格的に始まった。外苑地区は、東京都心の風致地区として百年近く守られてきた所だ。しかし、東京五輪を機に、建築規制が緩和され、今回の再開発で高層建築が立ち並ぶことになる。目的は、外苑地区を「世界に誇るスポーツクラスター」にするためださそうだ。

 この再開発で、低木を含めおよそ3千本もの樹木の伐採が予定されている。再開発が始まる前の2月、先日亡くなられた音楽家坂本龍一さんが、再開発の見直しを求める手紙を東京都の小池百合子知事らに送った。理由は、百年近い歳月をかけて育んだ自然環境を破壊させることへの懸念である。

 

神宮外苑地区再開発計画(東京新聞

 

坂本龍一さんの手紙(東京新聞

 日本はバブル期に、建物を壊しては建て替える「スクラップ&ビルド型投資」を行ってきた。建物をどんどん建て替えることで、短期的にカネは循環し、一部の既得権益者と富裕層にのみ恩恵をもたらした。スクラップ&ビルド時代は、バブル経済の崩壊とともに終わったかのように思えたが、近年の東京の変化のスピードは、以前より激しさを増している。いつもどこかで建設工事が行われ、わずか数年で風景ががらりと変わる。結果、同じような風景があちこちに作られていく。

 現代の東京の建築に志はあるのか。私はカネに群がる政治家と大企業、投資家がこの国を破壊しているとしか思えない。日本における都市開発は、そのことを目に見える形で表している。

 次の時代へと転換する理念や構想力を持つリーダーが不在の日本は、果たしてどこへ向かおうとしているのか。大量生産、大量消費、大量廃棄を繰り返す人工系の都市経営が限界に達している今。都市の人工系と生態系の調和を第一に考えた、未来のあるべき姿を真剣に考えるときが来ている。