Philoarts フィロアーツ 

藝術と日常の物語

駆け込み無料食堂 北千住の「ウチワラベ」

コロナが落ち着いたら行ってみたいお店がある。

北千住にある「銀鮭専門割烹兼駆け込み無料食堂ウチワラベ」だ。築70年の古民家に昨年1月にオープンした。

宮城県石巻市の銀鮭を使った和食店と無料食堂を兼ねている。無料食堂は子供だけでなく、親子や大人も受け入れているそうで、入口で「無料食堂を利用したい」と伝えると、定食を提供してくれる。

f:id:mori-yumi0331:20210112182436j:plain

いつでも誰でもここに行けば「温かいもの」が食べられる駆け込み無料食堂を開いた

(提供:東京新聞

経営者の内田洋介さんは、プロのキックボクサーとして活躍していた24歳の時、格闘技修行のためアメリカのロサンゼルスに渡り、空手を教えながら、調理師免許を生かして現地のすし店で働いていた。それから3年後、ニューヨークに引っ越しをしたが、物価は高く、所持金はすぐに底をつき、地下鉄の駅前で「殴られ屋」を始めた。しかし、三日後に警察に見つかって断念。地下鉄の駅で寝起きするホームレスになってしまい、道端の雪を食べて空腹をしのぐという壮絶な体験をしている。

しかし、運命の歯車はすでに回り始めていた。

ある日、チャイナタウンにあるパン屋から漂うパンのにおいをかぎながら、雪を食べていた。中から中国人の店員がでてきて、「捨てるから」と袋いっぱいのパンを差し出してくれた。そのパンは涙がでるほどおいしかった。

f:id:mori-yumi0331:20210112182800j:plain

 

そして、内田さんは、やり直そうと決心し、炉端焼き店で働き始め、お金を貯め、再びパン屋を訪れた。恩返しにパンを全部買い占めるつもりだった。しかし、逆に店員に怒られ、「そんな金があるなら、10ドルずつ困っている人に渡してこい。恩を受けたら、他の人に与えるものだ」。

それまで人のために何かするとは考えたこともなかったので衝撃を受け、人を助ける生き方を目指すことになった。

この内田さんの体験を聴いて、真っ先に思いついた言葉が、「運命のいたずら」だ。そして、きっと神さまは私たちをどこかで見ているに違いないと思った。というのも、私も遠い異国で、やはり運命のいたずらとしか思えないような体験をしている。

「捨てる神あれば拾う神あり」だ。

 新型コロナウイルス感染拡大で経済的に困窮する人が大幅に増え、ホームレス生活となり、野宿したりネットカフェで暮らしたりする人たちが増えている。

池袋の炊き出しに並ぶ人の数は290人を超え、前年の2倍近くにまで増えているという。これまでは高齢者が多かったが、新型コロナの影響で若年層が増え、30代から40代がボリュームゾーンになってきたという。

 「必要としている人は、たくさんいるはず。じつは来年もう1店舗、無料食堂を増やす予定なんです。子どもだけでなく、大人も、親子も、どんどん利用してほしい」と内田さん。頭が下がる。

この食堂に行けば、だれでも、温かい美味しいものが食べられる。そんな場所が「ある」ことに、心が温かくなった。