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藝術と日常の物語

ごはんの祈り

食事の前と後に、物心ついたころからずっと手を合わせて唱えている言葉、「いただきます」と「ごちそうさま」。

 「いただきます」とは、[生きるためにあなたの大切な命をいただきます]という意味が込められている。「ごちそうさま」は、食材に始まり、調理してくれた人にいたるまで、目の前にある食事に関わるすべての人たちへの感謝の言葉。

今のように物質が豊かではなかった時代、大切な客人をもてなすためには走り回って準備を整える必要がありました。だから「ごちそうさま」は手厚いもてなしを受けた時のお礼のあいさつでしたが、近代になって食後のあいさつとして用いられるようになったようです。

「いただきます」と「ごちそうさま」は、日本が誇れる素敵な習慣ですね。

 でもひとりでご飯を食べるようになると、だんだん「いただきます」「ごちそうさま」を言わずに食べてはじめ、終わってそのまま席を立つことが多くなります。特に、忙しくなると、料理をする機会は失われて、すぐ食べられるものを買ってくるようになります。そうすると命を捧げてくれたものたちや、その準備に関わってくれた人も見えなくなる。次第に食べ残しや食品を廃棄するようになり、命の重さが軽くなっていく。

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食べること話すことは、同じ器官で行います。舌です。舌は話す力と味わう力の二つの役割があります。古代のインドの神さまクリシュナは「ギーター(ヒンドゥー教聖典」」の中で、舌を使うときには特に気をつけるように教えています。

 「ギーター」によれば、バランスの取れた食べ物を、度を越さないように食べ、舌を正しく使いこなすことは、神を信じる人にとってきわめて大切ですと言っています。

 舌のもうひとつのはたらきは、話すことです。言葉というものは、その人の心のあり方にとても強く影響します。言葉には大変な力があり、ときに言葉は人の心を引き裂き、気持ちを傷つけ、人を殺すことさえできます。また逆に、いのちと勇気を与え、人生の最高の目標に向かわせることもできます。

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  舌は、私たちの命を守り、心のあり方を決める大切な器官だからこそ。まずは毎日行う食事の前と後にしっかりと「いただきます」「ごちそうさま」を、心を込めて唱えること。その日々の積み重ねが私たちの人生を、世界を平和で豊かにしてくれる。

そのことを心に刻み、今日も「いただきます」「ごちそうさま」、そして、「ありがとう」。